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大阪高等裁判所 昭和63年(行コ)16号 判決

控訴人

天満労働基準監督署長松田巌

右指定代理人

白石研二

田原恒幸

加藤久光

山本勝博

奥田勝儀

垣内久雄

被控訴人

柴田ノブ子

右訴訟代理人弁護士

中北龍太郎

村田喬

近森土雄

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  (原判決の事実摘示の付加、訂正)

原判決五枚目裏二行目の「並びに」の次に「就寝時刻を異にする」を付加する。

同一四枚目裏一〇行目の「従業員数」を「作業員数」と改める。

同一五枚目表末行の「作業所からの騒音」の次に「並びに就寝時刻を異にする同室者の存在」と付加する。

同一七枚目表六行目の「その余の事実は否認する。」の次に「久雄らの昼休みの時間は約一時間あった。」と付加する。

二  (控訴人の当審における主張)

1  脳血管疾患等における業務上・外の判断基準について

(一) 久雄の死亡原因は脳出血(以下「本件疾病」という。)であり、これは労働基準法施行規則三五条別表第一の二第一号ないし第八号に該当しないため、同第九号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当してはじめて業務上の疾病とされるものである。

(二) 当該疾病が業務上のものと認められるためには、それが業務遂行中に(業務遂行性)、かつ、業務に起因して(業務起因性)発生したものであることを要する。業務起因性とは、業務と疾病との間に経験法則に照らして認められるところの客観的な因果関係(相当因果関係)が存在することをいう。

ところで、右の相当因果関係は判例・学説上確立した概念とは言い難いが、右の相当因果関係が認められるためには、まず業務と疾病との間に事実的因果関係すなわち「あれなければこれなし」の条件関係があることが必要である。ところが、労働基準法あるいは労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)の規定は、右事実的因果関係があれば直ちに業務起因性を認めようとするものではなく、疾病には多くの原因が競合することが多いので、業務の疾病にもたらす原因力が相対的に有力なものでなければならないという立場を採用している。すなわち、現行法上、事業主が負う災害補償責任は無過失責任であり、しかもその責任は罰則をもって強制されていること、保険給付の原資はそのほとんど全てが事業主の負担する保険料でまかなわれているため、わずかでも条件関係が認められれば給付するという制度を採用すれば、事業主に過大な負担、過酷な結果を強いることとなり、災害補償制度、保険制度の存続基盤自体を危うくするおそれがあることなど諸般の事情に鑑み、業務の疾病にもたらす原因力が相対的に有力なものである場合に限って、災害補償の措置を講じようとする立場を採用しているのである。そして、業務の疾病にもたらす原因力が相対的に有力かどうかは、業務にその疾病を発症させる具体的危険性があるかどうかを判断の基礎とするものである。

右のように業務と疾病との間に事実的因果関係があるだけでは足りず、当該業務に疾病をもたらす相対的に有力な原因がなければ災害補償上の法的因果関係を認めないという立場(以下「相対的有力原因説」という。)は、労災認定事務を取り扱う行政庁の独善的な考えではなく、民事法上の因果関係の一般理論からも掛け離れていないものである。

(三) 労働省労働基準局長通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(昭和六二年一〇月二六日付け基発第六二〇号)は、「次の(1)及び(2)のいずれの要件をも満たす脳血管疾患(中略)は、労働基準法施行規則別表第一の二第九号に該当する疾病として取り扱うこと。(1) 次に掲げるイ又はロの業務による明らかな過重負荷を発症前に受けることが認められること。イ 発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(業務に関連する出来事に限る。)に遭遇したこと。ロ 日常業務に比較して、特に過重な業務に就労したこと。(2) 過重負荷を受けてから症状の出現までの時間的経過が、医学上妥当なものであること。」と定め、その解説で、右「過重負荷」とは、「脳血管疾患(中略)の発症の基礎となる病態(血管病変等)をその自然経過を超えて急激に著しく増悪させ得ることが医学経験則上認められる負荷をいう。」と定義し、右「日常業務に比較して、特に過重な業務」とは、「通常の所定の業務内容等に比較して特に過重な精神的、身体的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務」をいうとし、その判断については、第一に、発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると客観的に認められるか否かを判断し、第二に、発症前一週間以内に過重な業務が継続している場合には、当該期間の業務が特に過重であると客観的に認められるか否かを判断し、第三に、発症前一週間より前の業務については、発症前一週間以内における業務の過重性の評価に当たって、その付加的要因として考慮するものとしている。

右通達が、「業務による明らかな過重負荷」を業務上認定の一要件としているのは、業務の疾病にもたらす原因力が相対的に有力なものである場合(すなわち、業務に内在する具体的危険の現実化がある場合)でなければ業務と疾病との間に法的因果関係を認めない相対的有力原因説に基づくものであるといってよい。

(四) 原判決は、「死亡の原因となった疾病が基礎疾病に基づく場合であっても、業務の遂行が基礎疾病を急激に増悪させて死亡時期を早める等、それが基礎疾病と共働原因となって死亡の原因たる疾病を招いたと認められる場合には、業務と死亡原因との間になお相当因果関係が存在するものと解するのが相当である。」としている。この場合、業務がどの程度共働原因になれば相当因果関係が認められるのか明らかでないが、極めてわずかの原因となった場合にも相当因果関係を認める趣旨であれば、相対的有力原因説の立場からは到底容認しがたいところである。業務が疾病発生に対し相対的に有力な原因になったといいうるためには、業務の過重負荷による影響と基礎疾病の自然的増悪とを比較した場合、前者の方が後者よりも相対的に有力な原因になっているものと経験則上明確に認められることが必要であるというべきである。

2  久雄の基礎疾病の程度について

(一) 久雄は、遅くとも昭和四八年六月四日には秋田県の川内診療所において高血圧症と診断されているが、昭和四九年六月以降昭和五三年六月までの血圧値の変遷は原判決の別表(一)のとおりである。これによると、久雄の血圧値は、昭和五二年一〇月二四日以降段差をつけたかのように上昇し、拡張期の血圧値はほぼ経常的に一〇〇(ミリメートル水銀圧、以下単位省略)を越え、収縮期の血圧値は一五四ないし二〇四となり、医学的に確定できる最終の血圧値(昭和五三年六月一四日のもの)は、拡張期が一二〇、収縮期が一九〇となっている。

(二) 久雄は、昭和五一年四月二日から同年一一月二〇日までの間、降圧剤を投与されているが、拡張期の血圧値は九〇以上のままである。また、久雄は、昭和五二年一〇月二四日から二〇日間規則的に降圧剤を投与されているが、(一)で述べたとおり降圧効果はみられず、拡張期の血圧値は一〇〇以上が続いている。

(三) 久雄については、(二)で述べたとおり血圧のコントロールが困難になってきており、昭和五二年一二月三〇日の段階で入院して治療すべき状態であった。澤田医師も、久雄の高血圧症は昭和五一年一一月二〇日ころには降圧剤を服用しても高血圧が固定する段階にあったものと判断している。

(四) 久雄は、死亡の前の約一年間降圧剤の服用を中止しているが、右服用中止は、高血圧症を自然増悪させるいわゆるリバウンド現象を起こすことがあり、かえって悪影響をもたらすものである。

(五) 久雄は、昭和五一年五月の心電図検査により「左室肥大」と診断されているが、いわゆるスポーツ心であるためにはまず高血圧がないというのが条件であること、久雄は草相撲の経験があるのみで、継続的にスポーツに親しんだ様子がうかがえないことなどに照らせば、久雄は高血圧性心肥大であったということができる。

(六) 久雄は昭和五二年五月の眼底検査で眼底の高血圧性変化の程度が二度(中等度)であると診断された。殆どの高血圧症の患者の眼底の血圧性変化の程度は二度(中等度)であるが、そのような患者も脳出血を起こすことがある。軽度の眼底変化であっても、その所見が三〇歳台に出現した場合は、臓器障害を伴う高血圧症として、これを伴わない高血圧症と区別しなければならない。久雄の死亡に近接した時期の医学的データが存在したとすれば、久雄の昭和五二年五月の眼底所見は、さらに増悪していたものと推測される。

(七) 脳出血の原因となる血管壊死の発生は、加齢の影響よりも高血圧症歴の長さと相関関係が強く、三〇歳台でも三年以上の高血圧症歴があれば(久雄の場合、医学データ上高血圧症と診断された昭和四八年六月四日から死亡するまで約五年八月の高血圧症歴がある。)、血管壊死が発生し得る。

(八) 以上の事情、すなわち、久雄の高血圧症歴が長いこと、昭和五二年五月の眼底検査から死亡までかなりの年月が経過し、しかもその間高血圧症の程度が増悪していること、昭和五三年六月以降久雄の高血圧症に対する医療措置がなされていないことなどの諸事情に照らせば、久雄の脳実質内の細小血管は自然的な経過で容易に破綻する程度にまで脆くなっていたものというべきである。

3  久雄の業務内容及び作業環境等について

(一) 住環境について

建設業における寄宿舎生活は、通常みられるものであって、つ吉建設における寄宿舎が一般の労働環境に比して著しく劣悪であったということはなく、したがって、労働疲労の回復に適当でなかったとはいえない。

(二) 不規則勤務、連続勤務について

不規則勤務、連続勤務は、ガス管敷設工事等においてその工事の特殊性から一般的にみられるものであって、他の業務に比べて特に精神的、肉体的負担が大きいとはいえない。

仮に、これらの負担が大であったとしても、久雄は、昭和五一年から三年にわたって冬型出稼ぎ(毎年一一月から三月まで)の経験を有していたうえ、毎年同一労働条件の下に支障なく就労していたのであるから、これらの業務は、日常的平常業務というべきであって、過激な業務とはいえない。

(三) 死亡前日までの勤務状況について

久雄は、昭和五四年二月六日から同月九日にかけて四日連続で夜勤に従事しているが、これはいわゆる徹夜勤務ではなく、午前零時ないし午前三時三〇分までには仕事を終了していること、久雄自身昭和五三年度内の出稼ぎにおいて、四日以上の連続夜勤を一一月に一回、一二月に二回行っており、右四日連続夜勤は特に異常な勤務状態とはいえないこと、右四日連続夜勤時の気温は摂氏三・四度ないし八・四度であって、風も強くなく、厳冬期の夜にしては穏やかな気候であること、右四日連続夜勤の翌日は休日であるうえ、翌々日(死亡前日)は昼間二〇分くらい働いたに過ぎないのであって、十分な休養時間が確保されていること、冬期の戸外作業であっても、筋肉労働であれば、筋肉内の熱発生量が増し、熱放散を必要とするようになって末梢血管を拡張させるため、血圧の上昇が持続するものではないこと等の事情に照らせば、右四日連続夜勤が特に強度な身体的負荷を負わせたものということはできない。

(四) 久雄の死亡当日の勤務状況について

原判決は、久雄が死亡当日体力の劣る佐々木常造とのみペアを組んで作業をしたことを前提とし、そのブレーカー作業時間を合計一一〇分程度と推定しているが、当日のブレーカー作業において明確にグループ分けがなされたわけではなく、ブレーカー二台を久雄、佐々木常造、佐々木宏、町浦常雄、木下時盛の五人で順繰りに回して使用したものであるから、原判決の右ブレーカー作業時間の推定も誤っている。また、原判決は、(証拠略)就労状況報告書から久雄の平素のブレーカー作業を要する舗装割りに従事した時間を認定し、これと比較することにより久雄の死亡当日のブレーカー作業時間が通常より長時間であるとしている。しかし、右就労状況報告書には舗装割り作業従事者が明記されていないため、個人別にブレーカー作業時間を特定することはできず、久雄の平素のブレーカー作業時間を導き出すこともできない。したがって、右就労状況報告書記載の舗装割りに従事した時間と比較して久雄の死亡当日のブレーカー作業時間が通常より長時間であるとするのは妥当でない。

原判決は、本件現場は交通量の多い幹線道路で緊張を強いられていたと判示している。しかしながら、本件発症当日は代休としての休日であって、交通量はそれほどでもなかったこと、作業時には安全柵を設け、交通整理のためガードマン二人を配置していたこと、久雄は平素道路上でガス管敷設工事に従事しており、道路上での作業に慣れていることを考慮すれば、本件発症当日の作業において緊張を強いられていたとするのは適切ではない。

三  (被控訴人の当審における主張)

1  控訴人の当審における主張はすべて争う。

2  久雄の高血圧症の程度について

高血圧症の程度は、血圧、眼底所見、腎障害の程度、脳及び心臓の愁訴等から総合的に判断すべきものであるが、以下に述べる点をも総合考慮すると、久雄の高血圧症は控訴人の主張するように血管壊死の程度にあったとは到底いえない。

まず、久雄の眼底所見は、昭和五二年五月の眼底検査では高血圧性変化二度(中程度)、動脈性変化一度(疑い又は軽度)であり、高血圧による小動脈変化は少し進んでいるが、動脈硬化はあまり進んでいなかったことを示している。

次に、心臓所見については、昭和五一年五月に心電図検査により左室肥大が認められているが、これを冠状動脈硬化やエスティー・ティー変化を伴っていないことから、高血圧性心肥大であるともスポーツ心とも考えられるものであり、控訴人主張のように高血圧性心肥大であると断定することはできない。

さらに、腎障害については、昭和五一年五月の検査では久雄の腎機能に異常はなかった。なお、本件発症後の検尿で蛋白、潜血、糖などが軽い陽性になっているが、これは脳出血によるものであり、腎動脈硬化や腎機能障害によるものではない。

また、久雄の血圧値の推移は、原判決の別表(一)のとおりである。拡張期の血圧値を基準にすると、高血圧症は一一五以上の重症、九〇から一一五までの軽症、九〇以下の正常に分類することができるが、この分類によれば、おおむね拡張期の血圧値一一〇以下の久雄の高血圧症は軽症となる。久雄と同程度の高血圧症に罹っている人の多くは、健康な生活を長い間続けており、右血圧値の推移をもって久雄の脳に血管壊死があったと推認することはできない。

なお、控訴人は、降圧剤の服用中止によるリバウンド現象に言及しているが、リバウンド現象は必ず発生するものではないから、久雄にリバウンド現象が生じたとはいえない。

3  久雄の業務内容等について

(一) 不規則勤務、連続勤務について

不規則勤務、連続勤務が、精神的・肉体的負担を増大せしめることは、判例、医学、労働科学上明らかである。それに伴う疲労の蓄積も業務起因性判断の一資料とされるべきである。

不規則勤務、連続勤務を三年経験したからといって、その負担が軽減されるものではない。

(二) 本件発症当日のブレーカー作業時間について

原判決は、久雄の本件発症当日のブレーカー作業時間を合計一一〇分程度と推定している。本件発症当日の久雄の昼休み時間は三〇分ではなく六〇分であり、次の車線へ安全柵等を移動するのにかかった時間は一〇分ないし一五分ではなく五分ないし一〇分であるから、これらを差し引いた久雄の本件発症当日のブレーカー作業時間は合計一四〇分ないし一四五分と推認するのが正しい。

(証拠略)就労状況報告書の「本人の持分作業内訳」欄をみれば、平素久雄がブレーカー作業に従事した時間は一目瞭然であり、これと比較することにより久雄の死亡当日のブレーカー作業時間が通常と著しく異なって長時間であることがわかる。

(三) ガラ積みが重筋労働であることについて

原判決は、本件現場のアスファルト舗装の下のコンクリートが厚いため舗装割りに特別苦労したものと認め難く、また、本件現場のガラは通常のガラと比べて特に重量のあるものではなく、さらに、ガラの大部分は埋め戻しに用いられるのであるから本件現場ではガラ積みを要するガラの量が特別多かったとは認め難く、結局、本件現場でのガラ積みは通常業務であったと判示している。しかしながら、本件現場の道路には以前重量のあるトロリーバスが走っており、道路中央部分すなわち第二、第三車線のアスファルト舗装(厚さ一五センチメートル)の下には、厚さ三〇ないし四〇センチメートルのコンクリートがあった。したがって、右第二、第三車線の舗装割りをするには大変な労力が必要であったし、ガラも大きなものが多量に出たし、ガラ積みも通常と比べて重労働であったのである。

第三証拠関係(略)

理由

一  当裁判所も、被控訴人の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきであると思料する。その理由は、次に付加、訂正、削除するほか原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

〈1〉  原判決理由中の「第二 業務上の起因性について」(原判決二七枚目表六行目から同裏八行目まで)を次のとおり改める。

「第二 本件における業務起因性の判断基準について

久雄が本態性高血圧症の基礎疾病を有しており、その増悪によって脳出血を発症して死亡したことは、当事者に争いがない。

死亡した労働者の遺族が労災保険法に定める遺族補償給付及び葬祭料を受給するためには、当該労働者が「業務上死亡した」ことが必要である(労災保険法一二条の八第二項、労働基準法七九条、八〇条)。右の「業務上死亡した」とは、業務と死亡との間に相当因果関係があることをいう。そして、労働者に本態性高血圧症などの基礎疾病が存在する場合でも、業務の遂行が基礎疾病を急激に増悪させて死亡の時期を早める等、業務の遂行が基礎疾病と共働原因となって死亡の原因たる疾病を招いたと認められる場合には、当該業務と死亡との間には相当因果関係があるものと解するのが相当である。

控訴人は、右判断の基準について、業務と基礎疾病とが共働原因となって死亡の原因たる疾病を招いたと認められる場合の業務がどの程度共働原因になれば相当因果関係が認められるか明らかでないと主張するが、基礎疾病を急激に増悪させ死亡時期を早める等の業務遂行の有無が、業務遂行と死亡の原因たる疾病との間の相当因果関係存否の判断基準となるべきものであり、基礎疾病の自然的増悪を招く程度の業務遂行の場合は含まれないというべきであるから、控訴人の右主張は理由がない。」

〈2〉  原判決二七枚目裏一一行目の「同澤田徹」の次に「及び当審における証人上田一雄」と、同一二行目の「同第二五号証、」の次に「同第三〇号証、」とそれぞれ付加する。

〈3〉  原判決二八枚目裏末行の「同澤田徹の各証言、」の次に「当審における証人青山英康、同松崎俊久、同上田一雄の各証言、」と付加する。

〈4〉  原判決二九枚目表二行目の「同第二五号証、」の次に「同第三〇号証、」と付加し、同五行目の「右澤田の証言、乙第二〇号証の二及び同第二五号証」を「右澤田及び右上田の各証言、乙第二〇号証の二、同第二五号証及び同第三〇号証」と改め、同七行目から同八行目にかけての「右澤田の証言、乙第二〇号証の二及び同第二五号証」を「右澤田及び右上田の各供述部分、乙第二〇号証の二、同第二五号証及び同第三〇号証の各記載部分」と改める。

〈5〉  原判決二九枚目裏三行目の「降圧剤を服用していた」の次に「(もっとも、右期間内においても、降圧剤の服用を一時中止していたことがある。)」と付加し、同末行から同三〇枚目表二行目にかけての「割合軽い降圧剤で血圧は下がっており、同人の血圧はコントロールしやすいものであることが窺える。」を「昭和五二年六月二〇日までは割合軽い降圧剤で血圧は下がっており、この時期までは久雄の血圧はコントロールしやすいものであったということができ、降圧剤の服薬を一時中断した後の同年一〇月二四日以降は血圧が上昇傾向を増しアポプロンの注射やより強い内服薬を用いないと血圧のコントロールが困難になったが、それでも右薬剤を用いれば十分そのコントロールができる状態であったということができる。」と改める。

〈6〉  原判決三〇枚目表七行目の「スポーツ」の次に「(草相撲)」と付加する。

〈7〉  原判決三〇枚目裏三行目の「九月」を「同年七月」と改め、同七行目から同三一枚目表二行目までを次のとおり改める。

「5 久雄には、本件発症まで高血圧症及びこれによる臓器障害に基づく自覚症状があった形跡がない。

6 WHO(世界保健機構)は、高血圧症の程度をⅠ期(標的臓器の障害がない。)、Ⅱ期(左心室肥大、眼底変化、蛋白尿のいずれかを合併している。)、Ⅲ期(出血、白斑以上の眼底変化、脳卒中や心不全を合併した状態。)に分類しており、久雄の発症前の症状は前記眼底変化があるので右分類のⅡ期に該当する。

以上の事実、すなわち、久雄は本件発症時満三九歳で比較的若かったこと、久雄の昭和四九年六月から昭和五三年六月までの血圧の状態は、収縮期は、高いときで一九〇から二〇〇、普通のときで一五〇から一七〇、拡張期は、高いときで一三〇、普通のときで九〇から一〇〇であり、降圧剤の内服あるいは注射でそのコントロールが可能であったこと、昭和五二年五月の眼底検査では、高血圧性変化二度、動脈硬化性変化一度で、高血圧による小動脈変化は少し進んでいたが動脈硬化はあまり進んでいなかったこと、昭和五一年五月の心電図検査では高血圧性心肥大かスポーツ心か確定できない心電図変化があったにすぎないこと、昭和五一年五月から昭和五二年五月にかけての三回の腎機能検査には異常が認められないこと、久雄には本件発症まで高血圧症及びこれによる臓器障害に基づく自覚症状があった形跡がないこと、久雄の高血圧症の発症前の症状の程度はWHOの分類ではⅡ期に該当することを総合すると、久雄の本件発症前の高血圧症の程度は中程度の段階にあったものということができる。なお、久雄は、昭和五三年三月から一年弱の間降圧剤の服用をしないでいるうち、本件発症に至ったものであるが、この間に久雄の高血圧症が進行して脳実質内の小血管が高血圧症により容易に破綻する程度にまで脆くなっていたか否かについては、専門家の間にも積極消極両説あり、右積極説も推測の域を出ないので、結局右血管が容易に破綻する程度にまで脆くなっていたと断ずるには至らない。

右説示したところに反する控訴人の主張は採用できない。」

〈8〉  原判決三二枚目表一行目から二行目にかけての「コンクリートブレーカー、以下『ブレーカー』という、により、」を「ブレーカーにより、」と改める。

〈9〉  原判決三四枚目表四行目の「各証言」を「各供述部分」と改める。

〈10〉  原判決三四枚目裏末行の「また、」の次に「勤務の有無が」と付加する。

〈11〉  原判決三六枚目表七行目から同八行目にかけての「(以下『木下』という。)」、同八行目から同九行目にかけての「(以下『町浦』という。)」、同九行目から同一〇行目にかけての「(以下『常造』という。)」、同一〇行目から同一一行目にかけての「(以下『宏』という。)」をいずれも削除する。

〈12〉  原判決三八枚目裏四行目の「作業を打ち切り、」の次に「午後二時過ぎころまでに久雄らは」と付加する。

〈13〉  原判決四一枚目表五行目から同六行目にかけての「(他の者と交代した時間も含む。)」を「(他の者と交代した時間も含むから、久雄自身がブレーカー作業に従事した時間は右よりさらに短い。)」と改める。

〈14〉  原判決四一枚目裏七行目の「前述のとおり、」の次に「大きなガラは約一五キログラムあり、これを機械を使わずにトラックに積み込むのは筋力を要する作業ではあるものの、」と付加し、同八行目から同一〇行目にかけての「ブレーカーを操作していないときにガラ積み作業をすることは通常業務であるといえる。」を「また右のとおりガラ積みの量が特別多くはなかったのだから、ブレーカーを操作していないときに時間をかけてガラ積み作業をすることは通常業務であるといえる。」と改める。

〈15〉  原判決四三枚目裏五行目の「気を使うこと、」の次に「路盤がひび割れないままチゼルが食い込むとこれを引き抜くのに強い力が必要なこと、」と付加し、同六行目の「重量」を「重量と強い振動」と改める。

〈16〉  原判決四四枚目表三行目の「精神的緊張をもたらし、」を「精神的緊張及びこれによるストレスが加わり、」と、同五行目の「右緊張」を「右緊張、ストレス」とそれぞれ改める。

〈17〉  原判決四四枚目裏一〇行目の「精神的緊張」を「精神的緊張やストレス」と改める。

〈18〉  原判決四五枚目裏一行目から同二行目にかけての「久雄はその直後の午後二時一〇分ころ」の次に「(このときにも右精神的緊張及び右精神的肉体的悪影響は持続していたものと推認できる。)」と付加する。

〈19〉  原判決四五枚目裏三行目から原判決四六枚目表一一行目までを次のとおり改める。

「四 以上認定の各事実に、原審における証人足達七郎、同山川博、当審における証人青山英康、同松崎俊久の各証言及び前掲甲第五号証を総合すると、久雄の基礎疾病である高血圧症は、中等度のものであり、その自然的増悪により脳出血が発症したものとは認め難く、むしろかかる状態に至っていなかったものと推認されるが、他方、出稼ぎという生活環境の変化、冬期に暖房もなく夜勤明けの安眠も妨げられる住環境及び昼夜勤務による不規則な生活に、休息時間の少ない連続勤務等が加わることによって精神的緊張やストレスが持続しかつ肉体的疲労が相当蓄積されて久雄の高血圧症に悪影響を及ぼしていたところ、発症日直前に四日間連続して寒気の強い夜勤に従事したうえ、発症当日には車両交通量の多い幹線道路で騒音、振動を伴う重筋作業であるブレーカー作業に比較的長時間従事したため、これらが久雄の本態性高血圧症を急激に増悪させて本件発症を惹起せしめたものというべきであり、久雄の業務が基礎疾病と共働して死亡の原因を招いたものと認めるのが相当である。右認定及び判断に反する原審における証人澤田徹、当審における証人上田一雄の各供述部分、乙第二〇号証の二、同第二五号証、同第三〇号証の各記載部分は採用しない。

してみると、久雄の業務と死亡との間には相当因果関係があり、久雄の死亡は業務に起因するものというべきであるから、右死亡が業務上の事由によるものとは認められないとしてなされた控訴人の本件処分は違法である。」

二  以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大久保敏雄 裁判官 妹尾圭策 裁判官 中野信也)

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